肩関節は体重がかかりませんので、軟骨がすり減って生じる変形性関節症が少ない関節です。

筋バランスが重要な関節ですので体幹と肩甲骨周りを調整する事で痛みが改善する事も多いのですが、病状が進行しないとレントゲンでの異常が目立たないため、漫然とリハビリを受けていることもあるようです。

当院では早期にMRIや超音波の画像診断を行うことで診断を確定し、病態に合わせた機能リハビリを行います。

肩関節はリハビリ同様にエコー下ブロックやハイドロリリースも効果が出やすいのが特徴です。漫然とヒアルロン酸を5回打つなどではなく、原因部位を特定し少ない回数での疼痛緩和を心がけています。特に石灰沈着性腱炎の痛み、夜間痛を伴う凍結肩、腕をあげる途中が痛い腱板断裂などにはブロックがとても有効です。

それでも改善しない腱板断裂や、半年以上続く夜間痛を伴う凍結肩(五十肩、肩関節周囲炎)には手術も提案しますが、その場合でも体への侵襲の少ない術式を提案しています。

脱臼が癖になっている反復性肩関節脱臼に関しても関節鏡を用いた関節唇修復術(バンカート修復術)を行いっております。

スポーツ障害としての肩の痛みは手術に至るケースは少なく、専門スタッフによるリハビリにより競技復帰を目指していきます。

凍結肩(五十肩、肩関節周囲炎)

症状

軽微な外傷をきっかけに起きることもありますが、多くは原因がありません。
なんとなく痛いなどから始まり、夜寝ていると痛くて目が覚める、安静時にもしんしん痛い、90度以上あがらなくなったなどの症状で来院されます。

治療

後述する腱板断裂と同じ夜間痛や動作時の痛みを生じることが多く鑑別が必要です。
造影剤を関節内に注入すると関節の袋が縮小していることがわかりますが、痛い検査ですのでMRIやエコーを行います。

およそ半年から2年ほどで自然経過されますが、7年経過しても半数の患者様に痛みや可動域制限が残っていた報告もありますので適切な治療を受けることが重要です。
症状に合わせた日常生活指導、理学療法、補助的な薬物療法やブロックを行いますが、半年近く緩和されない頑固な痛み、可動域制限に対して手術を行うこともあります。

手術

全身麻酔下に関節鏡を用いて固く短縮した関節包や靭帯をリリースし、関節の動きを回復させます。


腱板断裂

症状

「動かさなくてもしんしん痛い」「肩が上がらない」などの症状であり凍結肩との鑑別が必要です。時に「五十肩」と診断され電気治療やマッサージ等を長期間受けている場合があります。引っかかるような痛み、ごりごりする、力が伝わらないなどは腱板断裂に特徴的症状です。

治療

エコー下ブロックや理学療法で残存した腱板機能を改善させることにより症状が改善することも多いです。痛みの強い時期は注射や投薬などで安静にし、病状に応じて可動域訓練や腱板機能訓練などの理学療法を行います。断裂部分が挟み込まれたり、引っかかるような状態だと保存治療で改善しない事もあり手術治療も考慮されます。

手術

全身麻酔下に関節鏡を用いて断裂した腱や固くなった靭帯、引っかかりの原因にもなる余計に尖った骨などを整え、後に吸収され骨に置き換わる糸付きアンカーを用いて腱板を縫合します。腱板断裂は大きさ、断裂形態、痛みの原因が多様な病態です。当院では今までの実績を活かし多くは関節鏡での1時間ほどの手術で良好な成績を得られています。腱板断裂は腱のほつれですので早期に診断をつけることが重要ですが、断裂径が広がって見つかった場合には大腿の筋膜を移植する方法(大腿筋膜パッチ、上方関節包再建)、高齢で関節症変化も伴っている場合は人工関節置換を行うこともあります。

肩関節鏡手術は1000例以上の経験がありますが同じように腱板断裂と診断されていても年齢、職業、腱や骨の質など様々です。断裂しているから手術ではなく患者さんそれぞれの背景を考慮し治療法を選択します。最近は金属ではない吸収されるアンカーを用い、入院期間も数日となっています。

残念ながら大きな断裂になってから受診され、挙上ができないなど重症な場合は以下の筋膜移植や人工関節置換を行います。

大腿筋膜パッチ 上方関節包再建


断裂して高度に引き込まれた腱板は筋肉もやせ、断裂した腱の断端もバサバサです。そのため無理に引っ張らずに、あて布をして肩関節がうまく動くようにバランスを改善させます。

太もも外側の筋肉を包む筋膜を移植することで術前は骨頭が上方にずれてしまい受け皿にはまっていませんが、術後は受け皿と骨頭の適合が回復しています。

リバース型人工肩関節置換術

放置された腱板断裂は断裂径が広がり軟骨のすり減りも伴ってきますのでごりごり痛くなったり、関節に血をためて大きく腫れ上がってきたりすることがあります。そのような腱板断裂症性関節症に対しては従来の人工関節では、痛みを多少緩和できたとしても肩の動きそのものの回復させることはできませんでした。しかし、日本でも2014年から新しいタイプのリバース型人工肩関節が使えるようなり、肩の機能回復がさらに期待できるようになりました。

欧州では30年の歴史がありますが、日本には随分と遅れて導入されました。欧米では肩関節を専門としていない一般整形外科医もリバース型人工肩関節置換術を行ってきたため、手術合併症が少なくない状況であったからです。


このため、本邦ではこの手術を実施するために施設や医師に厳しい基準が設けられています。「肩関節手術100例以上の経験を有するもの。腱板断裂手術50例以上および人工肩関節全置換術もしくは人工骨頭置換術を併せて10例以上」、「日本整形外科学会の定める講習会を受講している」などの基準が設けられておりますので肩関節を専門としている医師でないと行うことはできません。

変形性肩関節症

症状

関節軟骨の摩耗、不適合により関節の動きが悪くなり痛みや動きの制限を生じます。

末期になると着替えなどでもゴリゴリしてしまい強い痛みを生じます。

治療

痛みが強い時は一時的な安静、ヒアルロン酸などの関節注射などを行います。最近では再生医療として自身の血液中に含まれる血小板の成分だけを高い濃度で抽出し、注射する治療法(PRP治療、APS治療)もあります。

膝などに比べて直接荷重を受ける関節ではないため適切な指導や注射、運動器リハビリなどで多くは改善しますが、変形が強い場合や腱板断裂を伴う場合は手術になることも多いです。通常は人工関節置換術が行われます。

手術

人工関節は除痛効果の高い手術でありますが、適切な保存治療(生活指導、注射、リハビリなど)を十分に行ったうえで最終的に選択されるべき術式です。

*肩は直接体重を受けないので漫然と電気やヒアルロン酸の注射などで長期間我慢されている患者さんがおられます。我慢しきっていると関節の破壊が進み手術以外の治療法を選択できなくなることもありますし、手術自体が難しく(設置する骨が残っていない)、長期成績に影響が出ることもありますので遠方であっても一度は受診されることをお勧めします。

石灰沈着性腱板炎

症状

急性期症状と慢性期症状に分けられます。急性期症状は急激に発症し強い痛みがあるため「昨日から痛くて寝られないし、動かせません。」と、来院されます。レントゲンで腱板に石灰(カルシウム)が沈着していることが確認されます。慢性期症状は自然吸収されなかった石灰が肩の動作時に引っかかり生じます。動かすとぶつかるようにコクンと痛い、痛くて動かせない、夜間痛む等の症状があります。

治療

急性期は痛みも強いので安静にし内服や座薬を使用します。ブロック注射ができる場合はエコーガイド下に注射をします。

慢性期もリハビリを併用し柔軟性を出しながらブロック注射を行います。

エコーでは腱板の中の石灰部が白く明瞭に写りますのでブロックの後に同部の石灰を吸い出すことも可能です。

石灰の性状などにより排出されないこともありますが、針により穿刺により時間をかけて排出されるのを待ちます。

透明な局所麻酔に石灰が排出され白濁しています。

手術